筒香嘉智が引き寄せるもの

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筒香嘉智。私は同じチームに所属してはいたものの、同じ世界で戦っているとは到底いえなかった存在。昨日の試合はまさに彼が引き寄せた必然的な結果だろうと、テレビの前でそんなことを思っていた。

5月6日月曜日、21時21分。すべてのベイスターズファンが彼の復帰を歓迎した瞬間。

8回裏、3点ビハインド。佐野選手のタイムリーで2点差まで追い上げ、なお2アウト1、2塁。この場面で打席に立つことを彼は引き寄せた。勝負は刹那、初球を振り抜いた打球は大歓声のスタンドへ飛び込む。この時の感情を、私はこれ以上言葉にすることはできない。9回を森原投手がしっかり抑え、ベイスターズがこの上ない形での勝利を収める。

筒香嘉智。私は彼と2年間だけチームメイトとして過ごした。もちろん特別仲が良かったというわけではないが、彼と話していくと『ああ、絶対勝てないな』と何度も思わせてくれた。年齢こそ同じではあったが、いったい彼は私よりどれだけ先を歩いていたのだろうか。

印象的な出来事として、一度彼とご飯に行った際に聞かせてもらった話がある。それを聞いた私は、この男には絶対に勝てないと確信してもいた。その内容というのは『やれるときにとにかくやれ』というものである。文字にすると特段変わったことは言っていないのだが、彼はオフ期間の自主トレの内容になぞらえてそれを教えてくれた。文字通り、人として最低限のことをする以外の時間はすべて練習に使うのだ。一緒に練習していた選手の中には涙を流す者もいたという。大の大人が、それもプロ野球選手が、と考えると、その内容は恐ろしいものであったのだろう。実際そのタイムスケジュールを聞いた私は絶句した。シーズン中はコンディションの面にも気を使わないといけないため、オフの期間にしかこんなことはできないし、やらなきゃいけないと丁寧に話してくれた。

余談ではあるが、私は初めて彼と話した時『筒香さん』と呼んでいた。いくら同級生とは言っても、私よりはるかに大きな体で名実ともにかけ離れていた存在だったので、正直にいうと怖かったのだ。しかし、彼は『え、同級生やんな?やめてやめて、ゴウでええよ!』と気さくに話してくれた。それからは少しだけ身近に感じたりもしたが、やはり昨日の試合をみて『別格』だと感じざるを得なかった。

昨日の結果は偶然ではなく必然であったと私は確信している。彼があの結果を引き寄せたと言い切れる。というのも、もうひとつ彼が話してくれたことで印象的なことがある。それは『人生は選択の連続』だという内容の話である。人は1日のうち何回選択を迫られているか、その都度自分で選んで、決めて、行動していく。そのひとつひとつが、自分を形作っていく。というような話だった。彼は海外での戦いも、日本に戻ることも、悩みに悩んで選んできたのだと思う。そしてその選択のひとつひとつが、すべて意味を持つように過ごしてきたはずだ。科学的に証明することはできないし、何か根拠があるわけではないけれど、昨日の試合は『筒香嘉智』の全てが証明された試合なのだと、私は一人で納得していた。

歓迎が十分に済んだところで、ベイスターズのシーズンはまだまだこれからである。引き続き、心のどこかで応援していこうと、そんなことを思いながら私は今日も学校へ向かう。

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ライター紹介

三重県伊勢市出身。文藝春秋で2年ほどコラムを書いた経験から、文字を通じて伝えることの楽しさを学ぶ。同誌で2022年度コラム部門新人王受賞。自身をはじめ、様々な人の人生から得た学びを伝えていく。